ひとことば

青いタイルのモスクのドーム。

ダマスカス

イスラム世界のエキゾチックさは、ひとたび訪れた者の半分を虜にする。ぼくもその一人だ。とりわけ、ラマダン-断食月-の様子に興味を惹かれていた。

幸運にも1990年代のはじめはラマダンがちょうど大学の春休みに当たるようになっていて、うってつけの時期だった。この年はカイロからイスタンブルに向かう旅に出かけた。


けれども、ラマダンらしさを象徴する写真映りのいい瞬間はなかなか見つからない。テレビで見てちょっと憧れていた画面の外には、ラマダンなんてどこ吹く風の光景ばかりが目立っていた。

イスラムらしさを求めてイスラム文化圏を旅するのは、ツーリストの身勝手だと悟る。ラマダン最中の真っ昼間、ダマスカスの街ではチャイ屋も食堂も繁盛していた。


壁いっぱいに大統領の肖像が掲げられたビル。

地図を見る。この国の周りは頑固な地域大国と、小さくてもニュースの材料にだけは事欠かない問題児ばかりである。上からも下からもつつかれる次男坊のようだ。

一筋縄ではいかないこんな国の大統領の引き受け手は、多くないのかもしれない。「えらい人」はずいぶん長い間、こうして国中に顔をさらし続けていた。

「えらい人」はこの世からいなくなった。隣の国とは違って、その息子が「えらい人」の役を引き継いだ。


ダマスカスのバザール。民族衣装をまとっていても、都市らしい感じがする人々。

イスラム世界は旅立つ前に想像されるよりも、ずっと世俗的だ。加えてこの国には、独特な戒律のアラウィ派やキリスト教徒も多い。

それでも、バザールを徘徊するとエキゾチックな場面はすぐに見つかる。訪れる者を虜にする光景はこれだ。

しかし、イスラム世界の旅を重ねるにつれ、エキゾチックではないこの世界の魅力に気付きはじめる。