アンマンにやってきた。正確には、「やってきた」という言い方は嘘だ。このちっぽけで、人口密度も低い土地を旅行しようとすれば、好き嫌いに関係なくアンマンを通らざるを得ない。ぼくもまた、この街をただ通り過ぎるだけの旅行者だ。
そんな旅行者の持っている情報は、単純化されていてわかりやすい。「クリフ」という名前を街の人に数回発しただけで、宿の前に到着した。
ホテルの前の路地
今はラマザン-太陽の出ている間は断食する月-だ。ラマザンの真っ昼間でも平気な顔で食事ができるトルコやエジプトと違って、ヨルダンは結構厳しい。開いている食堂が見つからない。
宿の部屋に食材を持ち帰り、納得のいかない昼食を済ます。クリフホテルのちっぽけな窓から見えるアンマンは、ほんの少しだけで、つまらない。街の様子や、たまたま居合わせた客という「おかず」がほしい。
窓を開けてみる。おいしそうなにおいがしたからだ。
セルヴィス乗り場
この街は、どこも整然としている。この間までいたカイロのしっちゃかめっちゃかぶりとは対照的だ。セルヴィス-乗り合いタクシー-乗り場には誰ひとり列を乱す者がいない。露天商も静かに通りを行き来している。
よくできた街だ。しかし、外国人を見つけるや、しつこく構おうとするカイロっ子の鬱陶しさが懐かしくなってくる。刺激が少なすぎるのだ。
早々に宿に引き上げ、ラウンジで盛り上がっている「外国人特別区」に直行する。気楽な外国人の楽しい馬鹿話の輪が、心地よく迎えてくれた。
品物はきっちり並んでいる
部屋に帰ろうとしたとき、宿の従業員に聞かれる。「許可証はいつもらえるんだ?」。
許可証というのは、この国の一部ということになっていたヨルダン川の向こうへ行くための許可証だ。「外国人特別区」の会話を興味津々に聞いていたらしい。
しまった。ただ通り過ぎるだけということの無礼さに、ようやく気が付いた。客がいつ宿を離れるのか把握したいという、商売上の必要に動機づけられた口調ではなかったからだ。