プラハのイメージは悪くない。モルダウの流れるボヘミアの街は、魅力的なディスティネーションであり続けている。
しかし、現実のプラハは決して彩り豊かな街ではない。緑であるべき森は、酸性雨に冒されている。ひどい大気汚染に悩まされてきたせいで、真っ黒に煤けた建物も目立つ。
曇天の冬の日なら、なんとか「ごまかし」がきく。だが、晴れた日には一挙に粗が目立ってしまう。
カレル橋から旧市街広場へ続く通りは、プラハの中でもとりわけ大勢の観光客で賑わう。
この通りにしても、観光客がいるから華やかな雰囲気ができあがっている。観光客がいなければ、くすんだ建物に両側を遮られた陰鬱な通りに見えてしまいそうだ。
誰もが足を先に進めようとしている。一輪車の上で戯けるせっかくの飾り付けも、なかなか気付いてもらえない。
暖かい季節なら、旧市街の広場には明るい太陽が差し込む。好ましい、ヨーロッパの古都の姿に、観光客はうっとりする。
チップを目当てにしたさまざまな見世物の中、黒々した道具を手に半裸の鍛冶屋が汗まみれになっていた。その仕事ぶりを、観光客は食い入るように見つめる。
華やかではない、実直な仕事の光景が、期待されたプラハの姿なのだろうか。
旧市街広場に時を告げるのが、「からくり」を組み込んだ天文時計の仕事だ。1時間に1度飛び出す十二使徒の「からくり」が、観光客を集める。
その下では、3つの円盤が時を刻む。24時間でひと回りする時計から1年間でひと回りするカレンダリウムまで、わずかしかプラハに滞在しない者には気付かれない時間の流れだ。
「からくり」とゆっくり回る円盤には、毎日を実直に過ごしつつ、ときどき調子に乗って突っ走るチェコの愛おしさが象徴されている。