連結バスはいつも鈴なりでやってくる。バスを待つ停留所も、一日中鈴なりだ。
危と書かれた赤い旗を車掌席のあたりでひらひらさせながら、バスはやってきた。前のバスを逃してから3分もたっていないのに、ずいぶん待たされた気分になる。
列に並ぶ習慣がないから、停留所ではバスがくるたび必ず小競り合いがおきる。みんな急ぎたい。上海の時間の速さには、世界のどんな街も真っ青になる。
南京東路の歩道橋で上海の人を観察している間も、連結バスは数珠繋ぎだ。天井に穿たれた換気口が開け放されて、バスの中から目がのぞいている。
渋滞で止まったバスの中は辛そうだ。中の空気も動いている気配がない。上海人はいつもやかましいのに、バスの中ではなぜか静かになる。
ガラガラの連結バスに乗ったのは、これ一度きりだ。連結部分に座って、伸び縮する蛇腹やくるくる回る床板の仕掛けを観察して喜んだ。
しかし、ガラガラの連結バスの終点は次の停留所だった。どおりで空いているはずだ。その晩、回転する床板の組付けがどうなっているのか、気になって仕方なかった。
連結バスは電気で走る。屋根に飛び出た触覚のような細い棒で、電線を器用になぞってゆく。
器用な触覚も、ときどきヘマをやる。そのヘマをやるのは決まって大事な場面、大きな交差点のまん中だから厄介だ。
電気を絶たれた連結バスは、コンセントを抜いた家電製品と同じで、まるっきり音を出さない。道をふさがれた車の鳴らすクラクションが、より大きく聞こえる。