ウェールズは垢抜けない。旅立つ前に与えてくれる夢もなく、異国情緒を期待するにも中途半端だ。
不景気風が吹く街をうろつく赤い顔にも元気がない。立派な鉄道の駅は無駄に広いばかりで、街の中心の役目をやめてしまっている。
どうにかこの国があることを言い続けていないと、飲み込まれてしまう。原色の車がやけに目立った。
商店街も繁盛しているとは言い難い。それだけに、どの店もがんばって飾り付けをしようとしている。
その甲斐あって、一軒一軒が絵になる。通りの広さも向かい側から写真を撮るのにちょうどいい。
けれども通りを渡って店に入ってみる気は、なかなか起きない。人が少なすぎる。
美しい色をした風景だ。ひたすらきれいと言うほかに、ことばが見あたらない。
太陽は弱々しくて、海も船も、色が透き通って見える。触れようとした手が、突き抜けてしまいそうな色をしている。
カンカン照りの太陽は来ていないが、今は夏のはずだ。
海縁には半ズボンが大勢いる。夏らしくて、気持ちよさそうだ。宿に帰って、部屋着にしている半ズボンに着替えて出直そう。
同じバスでこの宿に着いたカナダの女の子が、ぼくの脚を見て笑い転げている。半ズボンに真っ黒な臑毛は似合わないそうだ。大きなお世話だ。
やけになって、臑毛を見せびらかすように歩き回った。寒い。ようやく気が付いた。半ズボンでも、みんな上半身には長袖をまとっている。
暗くなってしまえば、どうでもいい。半ズボンはやめた。
今夜もやっぱりパブに入る。イギリス同様メシはまずいけれど、酒のつまみはどれもいける。パブの中には陰気で、垢抜けない、それでいて愛すべきウェールズがあった。
風に当たりたくなって外に出ると、昼間は色の薄かったコンウィの城が偉そうにしていた。正しいライトアップの手本を見せられた気がして、反対側の丘に登ってみることにする。バルブでシャッターを切っていると、急に酔いがまわってきた。