ダマスカスを離れてからずっと、小さな街や遺跡をめぐってきた。どこも旅人を裏切らない、印象深い土地だ。
しかし、寂しい。東京のような街に馴染んだ者にとって、この国の人口密度は希薄すぎる。
人恋しさに勝てなくて、早く街に出たかった。アレッポ-シリアではハラブという-に着いたときには、散らかった部屋にいるような落ち着いた気分になれた。
昔からの都会だけあって、人のかまい方が清々しい。放っておかれるにしても、適当に相手をされるにしても、居心地がよい。
午後の観光地、絵はがきの店で子供が店番をしている。ませた感じの都会の子供だ。愛想はないけれど、仕事は正確にこなす。
アレッポには居心地のいい宿も見つけて、すっかり長居をしてしまった。バザールでは刺激が足りなくなってきて、足が裏通りへ、裏通りへと向かっていった。
そう簡単には車の通れない路地もたくさん見つかる。それでも強引に入り込んだ車がときどき「亀の子」になっていて、見物している分には格好の暇つぶしを提供してくれる。
動きのとれない車のわきを、手押し車が小さな騒動を起こしつつすり抜けてきた。この街の人たちの仕事ぶりを見つめるのが、だんだんおもしろくなってきた。
床屋に行ってみたくなり、伸びてもいない髪を切る。ひげを剃るだけのためにやってくる客が半分くらいいるようだ。
生憎ひげは濃くないけれど、日本の床屋よりも顔のむだ毛を処理する仕事が丁寧で、満足した気分になれた。
マハラビヤ(ライスプディング)を売る店の前で、品物がならべられる様子を飽きずに眺める。ひげのはえた口が、マハラビヤをつまみ食いした。おやじの腹の形に妙に納得し、声を立てて笑ってしまった。