ゴルカの街は、カトマンドゥとポカラを結ぶ国道から、少しだけはずれている。マナスルを望めることをのぞけば、観光客を引き寄せる材料はほとんどない。
しかしここは、ネパールの王家が最初に居を構えたところだ。国道の走るじめじめした谷間とはうって変わって、青い空と白い雲に囲まれている。
人と荷物で屋根までいっぱいのバスが、真っ黒な排気ガスを吐きながら、空をめがけてくる。
山の斜面はどこも段々畑だ。そして、わずかな隙間も残すことなく耕されている。人の手の入った、美しい緑だ。
これと同じ風景のなかで、誇るべき歴史が刻まれてきたはずだ。しかし、暮らし向きは楽ではない。
この土地は、勇猛さで世界中に名を馳せたグルカ兵も数多く送り出している。誇りはある。けれども彼らはそんな誇りを望んでいたのだろうか。
山へ続く坂道は、そのまま空に突き刺さりそうだ。雲は悠々と流れている。
いつもと同じように、大きな荷物を背負って坂道をゆくひとびとがいる。慣れ親しんだ道だと彼らは言うが、空も、雲も、荷物を持ってくれようとはしない。
一緒に歩いてきたけれど、息が切れてしまった。たばこを勧め、みんなで一服する。先に行ってもらうことにした。
丘の上にはかわいらしい王宮が今も残っている。小さいけれど、青い空と白い雲の間に浮かんでいるようだ。
王家がカトマンドゥに遷って久しいが、気高い雰囲気はかすかに漂っている。そして、どこまでも善良なネパールのひとびとが、来る者を待ってくれている。
勧められたチャイを飲み込んで、空を見上げた。空は相変わらず青くて、雲は相変わらず白かった。