白い雪をまとった山並みと、モロッコらしい赤い土でできた村の組み合わせが、タフロウトの春色だ。
明日は次の場所へ動こう。毎晩そんな決心だけはする。しかし、荷物をまとめる気は一向に起きなかった。
ミントティーを飲みながらアトラスに連なる山々を眺めたり、村はずれを歩いたりしているうち、あっという間に1週間が過ぎた。
アーモンドがタフロウトに春を告げる。サクラにそっくりの花だ。わずかな滞在の間にも、日に日に暖かくなってゆくのがわかる。
この村にいる間、湾岸戦争は山場を迎えていた。夕方のニュースの時間、カフェーのテレビは戦局を見守る村人を釘付けにした。
自宅にテレビのある人も、ニュースはカフェーで見ている。安心できるからだ。中継が終わったあとも、戦況についての議論が延々と続いていた。
アーモンドは律儀だ。毎年こうして春を知らせに花を咲かせる。
この村で開かれるバザールは、もっと義理堅い。季節を問わず、毎週村を賑やかにする。
バザールの日のタフロウトは、いつもとはまるで違って、めかし込んでいる。トラックの荷台に揺られて遠い集落からやってくる人たちは、埃まみれになる道中を知りながら、一張羅の服を着てくる。
バザールは早朝からはじまる。そして、思いのほか早い時間に切り上げられる。
午後になると、大勢の客人を迎えて忙しい一日を過ごしたこの村のひとびとも一息つける。ニュースの時間はまだ先だ。
賑わいの去った夕方は、いつもと同じようにモロッコの山々が真っ赤に染め上げられた。