アフリカの旅にあこがれるツーリストは多い。ぼくもそんなツーリストのひとりだった。
治安は芳しくなくて、食事も口に合わない。アフリカが悪いのではない。悪いのは大きすぎた期待だ。ザイールのゴリラの森にまで踏み込んだ旅は、手に入れたものも消費したエネルギーも盛大だった。刺激的だけれど、いつになく疲れ切ってしまう。
帰りの飛行機まではまだ日にちがある。慣れ親しんだインド人やアラブ人の多いモンバサに逃げ込んだ。
モンバサは落ち着いている。カメラを構えるのも憚られるナイロビに比べれば治安はよっぽどマシだった。
トウモロコシの粉でできた味気ないウガリはもう食べたくない。この日はインド人の店でターリのランチを楽しんだ。「わんこ蕎麦」のように次々と給仕される食べ放題のランチを貪った。
今回の旅行ではナイロビのほか街らしい街を訪ねていない。そのナイロビは治安が悪くておっかなびっくりだから、モンバサで楽しむ久々の街歩きは気持ちいい。アラブ世界やトルコで見慣れた門構えを、タバコが1本なくなるまで眺めた。
モンバサにはインド洋がある。インド洋は太平洋だ。太平洋の向こうには日本がある。
海の近くで育ったせいで、いつもは有難味を感じない海だけれど、やっぱり海の近くはいい。砦の上から、砦の下から、半日近く海を眺めていた。
砲台からインド洋をのぞいたり、角の丸まった石段を上り下りしていると、アフリカにいるという気はしなくなってきた。遊びに来ているインド人の話すインド訛の英語になぜか安心する。
暗くなってきた。海から近い旧市街でスワヒリ料理を食べることにする。
スワヒリ料理の皿には、アラブとアフリカと、そしてインド洋が盛りつけられていた。揚げただけの海の魚、ココナッツのスープもの、どれも簡単なのに、モンバサの味付けが加わるだけでご馳走になってくれる。
旧市街のひとびとの顔立ちも、スワヒリ料理と似ている。尖ったところがほどよく取れたモンバサの顔は人なつこい。