大帝国に組み込まれていた時代が終わってから、牢獄だった塔の上には、青と白の国旗がずっとはためいている。ギリシャの空の色には、この旗が似合う。
小さくなった大帝国は、この国のとなりで普通の国の暮らしをはじめた。普通の国の指導者は、この街-テッサロニキ生まれの人並みはずれた傑物だった。
テッサロニキのひとびとに傑物のことを聞きたかったが、躊躇った。
みんな背筋を伸ばして歩いている。いつもにやけ顔をしたとなりの国とは、ちょっと勝手が違う。
ぼくも自然と、背筋を伸ばして歩くようになった。しかし、南欧のお手本のような太陽は情け容赦ない。午後には背筋を伸ばす「電池」がきれて、日陰ばかり選んでいた。
日陰の一歩先はカンカン照りだ。それでもしっかり立って、誰かを待っている。ギリシャの人は子供のころから気丈なのかもしれない。
市場を歩く。土砂降りの太陽に照らされて、トマトも、ピーマンも、パプリカも、鮮やかな原色に光っている。
みんな背筋は伸ばしているが、買い物客も店の主人も、顔には少しだけしわが寄っている。やっぱり暑いんだろう。
古代ギリシャ人との血のつながりは薄くても、この国は大きな看板を背負っている。どんなに日差しが強くても、背筋を伸ばし続けているのかもしれない。
タベルナやウゼリアが賑わうのは、日が沈んでしばらくしてからだ。そんなギリシャを旅していると、普段からの宵っ張りがますます重傷になる。
テーブルに座った人々は、昼間とはうって変わって姿勢を崩す。「電池切れ」になっているぼくも、これなら仲間に入れてもらえる。
白く濁ったウゾに氷を浮かべ、ギリシャの今が話しかけてきた。