インフォメーションで行列して、ようやく宿を斡旋してもらった。列に並ぶ観光客もオフィスのクラークも、やつれた顔をしていた。こんな夕方が、夏の間中続く。
その日は歩くのをあきらめて、遅くまでビールとワインで過ごした。次の日ようやく、太陽に照らされた街と対面する。この街は住民を総動員して観光地をやっていることがよくわかる。
本で読んだままのブルージュ。ちょっと不満を言いたくなるぐらい、想像していたとおりの景色だった。
水路の続く街を一日中歩き回る。夏の光でいっぱいだけれど、清々しくて、緑の陰に入ると高原に来たような気分になれた。
泊まっている宿は1階に小さなバーがある。宿へ帰るたび、クリークを水がわりに開けてしまう。観光客の仲間に入るには、ほろ酔い加減がちょうどいい。
観光客向けの船に、ぼくも乗ってみた。安くはない遊びだけれど、旅をしている気分にどっぷりと浸れる。
ときどきエンジンの音が水路をかき分けてゆく。そのたびに、暗い橋のアーチから水面に小さな波が伝わる。ボートは飛び出してきた。
多分この街の人ではないのだろう。そう思いたくなった。ここまでやられると、わざとらしすぎて、一気にしらけてしまう。
ぼくはひねくれ者だ。水路のカットはもうやめた。今風の街を探して、赤ら顔は似合わない一角をぶらつくことにする。
ただのヨーロッパの街は簡単に見つかった。観光地であり続けるための総動員態勢も、ここには敷かれていないようだ。
いたずらが過ぎた子供がしかめ面のママに叱られている。店に入ると言葉がさっぱり通じなくて、注文にずいぶん難儀した。旅はこうでなくちゃいけない。