ひとことば

揚げ物

ロンドンの下町。Fish & Chipsの店のガラスには、「フライングタイム」という時間が書かれている。1日5回くらいだろうか。なにかいいことがありそうな予感をさせる誘い文句だ。

とはいうものの、飲み食いしたいという欲求は、いちいちそんな時間にあわせてやってくるものではない。食いたいと思ったときに食う、飲みたいときに飲む。カラオケボックスのハッピータイムをめったに使わないのと同じである。

Fish & Chips-決して高級な食品ではない。第一名前に「ひねり」がない。そのまんまじゃないか。彩りがまったくないのにもあきれる。パセリの一切れでも添えれば、だいぶんマシになるとアドバイスしてやったが、店主の多くは「聞く耳持たず」のようだった。そしてなにより、「揚げたてアツアツでない」ことが多い。これは致命傷である。

オプションとしては、塩とモルトビネガーを選択できる。塩をかければなんとか「エサ」のレベルにはなる。モルトビネガー-フライド・ポテトに酢というのも気持ち悪い感じがするが-こいつを加えると、「フライドポテト」とはぜんぜん違う食品ではあるものの、それなりに食える。少なくとも「エサ」という範疇からは脱却できる印象だ。

いずれにしても、「イギリスのまずいメシその1」に続いて、「まずい」に2票目を投ずるのはやむを得ない。イギリスを旅行していると、食い物の選択肢がこんなFish & Chipsしかないという、かなり辛い場面に1度くらいは遭遇する。

私はサッサとこんな国をあとにするまでだが、ここに生まれ育ってしまった連中は、まったく気の毒の一語につきる。さすがに慣れているのか、「辛そうな」表情こそしていないものの、「楽しい食事」という雰囲気では決してない。こんなメシなら1ペンスでも安く上げたいという気持ちは非常によくわかる。それゆえの「フライングタイム」なのだろう。

しかし、情けないくらいの時間がたってから、「フライングタイム」が「Frying Time」であることに気がついた。思いこみは恐ろしい。揚げたてポテトは安く飲めることと同じくらいに「ありがたいモノ」であるようだ。