ひとことば

アラブの民族衣装で旧市街を歩く人たち。

エルサレム 壁と、暮らしと

エルサレムほど異国らしい気分を味わえる街は、なかなか見あたらない。目に付きやすい民族衣装のせいばかりではないだろう。

耳を澄ますときこえる音、門やアーチを抜ける風、いろいろな要素が複雑に絡み合って、異国の雰囲気を作り出している。

歩いているのは、この街で生まれた人ばかりではない。遠い日本からやってきた観光客も、多くの中の一人になれてしまう。


屋根に覆われたバザールで、見事な白髭の男と店主が交渉している。

暗がりに広がるバザールに入る。買い物のやりとりは、ずっと昔の瞬間をそのまま見ているようだ。電卓やレジスターを使っていることだけが違っている。

白熱電球の明かりは、ランプがまっすぐに進化しただけだ。微妙な言葉をつかまえる駆け引きを照らし出していることに、なんら変わりはない。

夏も、冬も、雨の日も、厳しい日差しの日も、こうして暮らしは続いている。


露天に広げられた野菜。狭い通りはいっぱい。

広くはない街を囲む壁は、エルサレムを一層せまくしている。わずかな空間が見つかれば、あるものすべてが広げられ、商売ははじまる。

目一杯に賑やかにしないと、せまくて、密集した壁の中では目立てない。露天の商人は、壁を穿った店などお構いなしに、品物をならべる。

客は途切れない。途切れたら新しい客をつかまえるまでだ。


店が閉められガランとした通り。

ほとんどの商店は夕方まだ明るいうちに、シャッターを降ろしてしまう。このころの壁の中は、遠いチュニスのPLO本部による指令で、商店の閉店時間が決められていた。

その時間に居合わせると、通りで見渡せる限りの商店が一斉に店じまいをはじめる様子に呆然としたものだ。モスクで行われる礼拝にも似た、不思議な美しさのある光景だった。

つい数分前まで溢れていたひとびとは、どこへ隠れてしまったのだろう。人気の無くなった通りを、宿へ引き返す。宿に戻れば話し相手も見つかる。人恋しさに勝つことは、この世でいちばん難しい。