ひとことば

シンプルな造りの駅舎の前、列車の客を乗せてきたオートリクシャーが佇む。

灼熱列車

パキスタンのクエッタからイラン国境までは、灼熱の大地をゆく旅だ。横5列の座席を室内いっぱいに並べ劣悪な道路を這ってゆくバスと、週2便しかない列車が灼熱の大地で旅人を運んでいた。

日中の気温は摂氏50度近くまで上がる。インド亜大陸で旅人を悩ますハエさえも、飛び方は緩慢になる。

今日は列車が出る日だ。出発の時刻がゆっくりと近付いてきた。


麻袋の荷物が並ぶホーム。客車の屋根では作業員が給水にあたっている。

このルートを走るバスは、その旅の厳しさで評判だった。横5列の座席、灼熱の大地、波打つ道路、悪条件は揃っている。取り立てて見るべきもののないクエッタに2泊して、週2便しかない列車を待つことにした。

みんな列車を待っていたのかもしれない。プラットホームに並ぶ荷物は、乗客の体重よりも重たそうだ。

本数が少ないだけに、旅の準備はまどろっこしい。たっぷりの水が客車に給水され、ようやく旅の準備は仕上げに近付いてきた。出発時刻はもう過ぎている。


ぺったんこのホームでシャルワルカミーズの男たちが話し込んでいる。

砂礫の大地を淡々と進んでゆく。景色は単調で、どこまでも変わらない。ただでさえゆっくりとした列車のスピードが、一段と遅く感じる。

不意に列車が止まる。窓から入り込む生暖かい風さえなくなると、気温はとたんに跳ね上がる。耐えられなくなって、男はみんな外へ出た。

わずかな地面の舗装とポイントがなければ、ここが駅だということに気が付かない。そんな駅でも人の乗り降りはある。週2回の列車が、この大地と世界をつないでいる。


到着した列車に荷物運びの車が群がる。ホームもなにもない駅。

灼熱の昼間が終わって、列車はほこりっぽい夜に飛び込む。板張りの硬い座席でひと晩を過ごす。

麻薬に冒された乗客や同性愛の乗客もいた道中は長かった。ようやく朝がやってくる。乾燥地帯らしい、空気の澄んだ朝だ。

列車は何もないところで止まった。終点、タフタンの駅だ。駅らしい設備は何もないが、列車が止まるからここは駅なのだ。

大地はこの先もずっと続いている。